インタビュー 全ての記事 池照佳代

桃山学院大学 経営学部ビジネスデザイン学科の酒井之子先生に聞く ーEQを取り入れた【モチベーションとストレスケア】授業レポート

今年、桃山学院大学にてEQを取り入れた【モチベーションとストレスケア】と言う授業が行われました。
【EQ+LAB】運営元の株式会社アイズプラス代表・池照が授業を行った酒井先生にお話を伺いました。

ー酒井之子先生のご紹介ー
桃山学院大学 経営学部 ビジネスデザイン学科 特任准教授日本
アイ・ビー・エムでシステム開発やコンサルティングを担当し、その後、人事にキャリアチェンジ。
人材開発部門では能力開発・評価制度企画・運用、キャリア形成支援、リーダーシップ開発に従事。
コニカミノルタジャパンへ転職後、ダイバーシティ推進、管理職育成、中堅・若手社員のビジネススキルやリーダーシップスキルの研修を統括。経営管理博士。

より良く生きていくためのEQ

池照:先生がこの教養・文化科目【モチベーションとストレスケア】を担当された経緯について教えていただけますか?

酒井(敬称略):この授業を新しく作ることになった時に大学のカリキュラムの側からの目標として①環境変化が激しい中でメンタルヘルスの基礎を早いうちから理解してもらうこと、②ストレスの捉え方と対処の仕方や心身の健康についても大学生1年生のうちから学んでほしいと言う二点が挙げられました。それにプラスして「なんのためにモチベーションとストレスケアについて学ぶのか?」を考えたときに日々の大学生活、今後のキャリアデザインなども含めてより良く生きていくためにと言う3番目の大目標を私自身で付け加えました。
このビジネスデザイン学科は2019年4月に誕生した新学科であり、何もないところから授業の構築をスタートしました。それには良い点もあり目的や目標から、ゼロベースで授業を作り上げていくことが出来ました。今回この授業は選択授業【教養文化科目】の一つになっており、1年次18名の生徒が自らの意思で選択し、授業を取ってくれました。

1回90分の15回の授業は以下の4つのテーマを元に組み立てていきました。
1.【理論・知識】ストレス、モチベーションの理論と知識。
2.【対処法】コーピングスキル:セルフトーク、アサーション、レジリエンス、コミュニケーション等のスキル系
3.自分を知る、他人を知る
4.ロールモデルから学ぶ

この学科は実際にビジネスを作ることが出来る人材を育成する学科でPBL=Project Based Learningを取り入れています。具体的には企業や地域と一緒になって、その企業のビジネス課題や社会問題を4,5人のグループ編成で4ケ月程かけて調査し新しい提案をするプロジェクトをメインの授業内では行っています。その時に見ていると、社会人でもそうですが、チームで他人と何かに取り組むにあたり、自分、そして他人の状態や意見を理解することに苦労があるようだったので、それも横に置きつつ【自分を知る。他人を知る】と言うのが大きなテーマの一つになりました。
一方で、「自分ではこういうところがうまく対処できない」「こういうところはうまく行動で来ている」と言うことを知るだけでは成長がないのでそれに対する対処法としてコーピングスキルを入れました。
また、自分と他人と言ってもクラスメイトしかいないので、幅を広げて社会人ロールモデルやメンターから学ぶことも取り入れました。
自分を知る、他人を知る方法としては、自己の振り返りや教員や周囲からのフィードバックに加え、客観的な指標があった方がお互いに学びやすいものです。EQの他にも、ハーマンモデル(人の利き脳を知るための手法)、DiSCなど候補をあげて検討しました。この中で、自己内省で行動まで振り返ることができ、納得がいくものが良いと思い、これがEQを導入するきっかけとなりました。

具体的な目標設定が変化をもたらす

最初の授業の時に、この授業を選んだ理由や学びたい事を生徒に聞いたところ、心理学や心理テストへの興味、また「ストレス」や「感情のコントロール」への興味があることが分かりました。客観的に自分を知ることを望んでいると感じ、EQに詳しい池照さんに相談させてもらいました。

池照:授業スタートしてすぐに参加者全員がEQのアセスメントを受けられ、先生がフィードバックを授業としてされましたね?

酒井:はい、全員が受検しました。私自身が以前に池照さんからEQ検査を受け、フィードバックも受けていたのでだいたいの流れは分かっていました。ですが、今回、学生にフィードバックするにあたり、池照さんからフィードバックにあたってのTTT(講師向け研修)を受けて授業を進行しました。
学生達は皆興味をもって受検し、フィードバックと目標設定を2回の授業にわたって行いました。
EQって何?からスタートし、自分の結果から感想や気づきを振り返り、自身の特徴を分析してグループでシェアすることで理解を深めてもらいました。その後に目標設定を行っていきました。

目標設定に関しては以下の2つの目標を設定しました。
1.クラス共通目標 
クラスの平均を出してみると過去をクヨクヨ考えてしまうといった【抑うつ性】や、将来を心配するといった【特性不安】が弱いことが分かりました。一方で、【私的自己認識】、【社会的自己認識】が高めで、自分のことも気にしているし、周囲からどう見られるかを気にしているという点に強い傾向が出ました。【自己主張性】や、【人間関係度】といった対人関係力も少し弱い。また、【達成動機】は、強く、何かをやり遂げようとする素晴らしい面がある。このクラスの特徴を踏まえて、受講生全員で取り組む共通目標をつくるのはどうか、と学生に提案しました。結果、ストレスに上手く対処する、対人関係をより良くする の2つのテーマがでてきました。授業構成も決まったものを与えるというよりは生徒たちに合わせて作り直すことになりました。

2.個々人の目標
池照さんから紹介された「ほぼ100シート」*を使用して目標設定をしてもらいました。100日目がちょうど授業が終わる時期に重なるのでよかったです。具体的に、測定可能なものを立てるように促し、曖昧になりがちな目指す姿を具体的に設定させるようにしました。クリエイティブ、やり抜く、コミュニケーションは、当学科の身に付けたい共通の力であり、他の授業でもテーマになっているのでその点で考えても良いということにし、他の授業でやってるプロジェクトのチーム目標も参照して目標を立ててもらいました。当学科では、カリキュラムデザインを、各授業が連携していることを重要視しているので、この授業での目標が、他の学びとつながるといいと思いました。書いたものを見てみると人によって差も出ます。
<目標例>
・やる前から無理だと決めつけないで自分の意見を主張できる自分になる
・いろいろな人から話しかけてもらいやすいように朝からテンションを上げる
・EQ検査結果で、他人に対して冷たい行動を取っているという結果だったので、相手の気持ちになって考えられるようになる
・ストレスに強い人になる

4回目の授業で目標を立て、その後は授業時間の中で先週の状態がどうだったか5分間程度で共有し、100日経ったときにBefore Afterで自分が変わったことなどをレポートに書いて貰いました。目標設定時も気づいていましたが、やはり、目標が曖昧な学生は結果的に最後のレポートでもBefore Afterの差が見られませんでした。一方、たとえ小さな行動であれ、実際に開発行動を実施したことに対して変化がみられていたのが印象的でした。例えば、アサーションを高める行動を実際にプロジェクトで実施したらチームの雰囲気が良くなったり、自分の感情が乱れたと思ったら深呼吸する、むかついた時に6秒待つなど具体的に実施したことが、変化に結びついていたということです。

池照:目標の立て方で、結果に差が出たということですね。学生さんの反応で驚かれたことは何かありましたか?

酒井:これは想定外でしたが、目標設定の中に「自分はあまりストレスを感じないけど、他の人が悩んでること、例えば、『意見が言えない』というのを支援する、他の人を助ける時に活用したい」と言ってきた学生が複数いました。他者への支援にも活かしたいと自ら言ってきたことは期待した以上の目標で、感動しました。

これだけ時間をかけて自分のことを段階的に周囲の仲間たちと共に知ると言うのが良かったと思います。大人ではなかなかかけられない90分×15回の授業機会があったことが貴重でした。

レジリエンスとアサーション

池照:他に、今回の授業ででたキーワードの中で学生の皆さんの興味が高かったものは何かありましたか?

酒井:レジリエンスは一回の授業でと思っていたのですが、具体的にどうやって立ち直れば良いか、もっと深めたいという学生が多かったです。急遽、授業プランを更新し、レジリエンスの回を増やしました。

池照:そもそもレジリエンスと言う言葉自体の認知はあったのですか?

酒井:言葉自体の認知はないところからのスタートでした。レジリエンスの意味を理解する講義から行い、それを自分に当てはめると言う自己投影に興味が高かったです。
アサーションも関心が高かったです。すでに前期の授業で「傾聴」を学び、グループワークも数多く行っていたのですが、見ていると同調傾向が強くみられます。他者を否定したくないというのが根底にあって、「いいね」「いいね」で終わってしまい、自分の意見が言えない人もいます。いわゆる強いリーダーシップを持った子の意見が通ってしまい、ビジネスプランコンテストみたいになるとそういうリーダーシップを持った子たちは優秀だし、プレゼン力があり、良い面もあります。でも他のメンバーがちっとも納得してない。PM理論で言うと目標達成(パフォーマンス)はいいけれどメンバーをまとめる力(メンテナンス)が下がり、一部の人が意見を言えずに人間関係が悪くなるようなこともありました。なので、アサーションは目新しくありつつも、自分たちにも照らし合わせられる日々のコミュニケーションスキルだったように思います。

池照:EQI検査の結果をベースに、常に反復しながら見えるような内容でやってきたのですか。

酒井:自分のEQIの結果は毎回授業に持ってきてもらい、振り返りながらやっていきました。そうすると自分事になりますよね。自分の強みや弱みを意識しながら授業を受けてもらいました。検査の捉え方も「やっぱりそうなんだ!」と納得する人もいれば、行動量が低いという結果には「はぁーっ、残念」てなる人もいれば、「私、これいけてるからいいんです!もっと伸ばしたい」なんて言う子もいましたね。

池照:後者の方は大人にはなかなかいないんです!後者の方が良い意味で楽観性の発揮ですね。同じ事実でも捉え方の違いで感情や状態をポジティブにもネガティブにももっていくことができますから。

酒井:学生の中に共感力のスコアが低い人がいて、本人は低いからと心配していました。池照さんからのアドバイスで、EQI検査は「行動の量であって、共感力がないということではない」ということと、この検査のとらえ方を丁寧に伝えたところ、安心していました。「行動」に着目できるのはとても分かりやすく、理解がしやすいですね。また、池照さんからのアドバイスで、「EQの開発方法」も教えてもらっていたので、そこにつなげやすかったこともよかったです。

全ては「自分を知る」から始まる

池照:アセスメントにより自分を理解することや「強み」を認識することは大事ですが、それよりもっと重要なのは、そこからその強みをどう磨いていくかです。スコアからのとらえ方や解釈により、その人にとっての意味付けやその後の開発が変わってきます。自分を知る、強みを知る、そしてこれをどう活かせるかを行動しながら考える。EQの開発のヒントは、誰でも挑戦できるような小さな開発行動を示しているので、学生だろうが社会人だろうが、開発につながっていくのです。

池照:大学生向けにEQをベースに“自分を知る”と言うテーマでこれだけじっくり掘り下げている授業は、日本では他に聴いたことがありません。社会人向けのプログラムでは取り入れていることが多いものですが大学1年生にもEQベースの“自分を知る”材料になったことはポジティブな発見でした。年齢的に早すぎることはないのですね。
現在日本でのEQの学びは、ターゲットの多くが社会人であり、“仕事上でパフォーマンスを上げるためにEQを活かす”がメインメッセージです。もともと海外では幼稚園からの学校教育や大学生向けにも活かされていて、今回のように自己認知やコミュニケーション、課題解決に活かすことができるということが先生の実践からよくわかりました。私自身も自信がつきました。

酒井:最初は大学生には分かりにくいかな?と感じたこともありましたが、自分の良い所、足りていないところを見つけられたと言う意見もありました。EQを難しいものと言うようには捉えなかったようです。心理学の内容を期待していた人には思っていたのとは全然違ったという意見がありました。

池照:社会人でも話を聞くと、期待していたのは「ダイバーシティは…組織行動論とは…」等ちょっとつまらないものかと思っていたけれど、「自分の感情をベースに、自分の行動やふるまいにつながっていて興味深かった。期待していたのは理論側だったけれどふたを開けてみたら生活や仕事にリアルに密着していた。」と言ってもらうことが多いです。

酒井:「他の授業とは違って、自分の生活にすぐに結びついていて、自分が生きていくうえで大事だと思った。活かせると気づいた」等の意見もありました。18歳という年齢は、これまでも何らかの選択はしてきているし、もっと早くやっても良いくらいです。

池照:EQが次の社会の主役となる学生の皆さんがさらに飛躍を後押しするものになればと思っています。今後も先生とご一緒に活かしていきたと思っています。

酒井:授業を受けた学生たちが継続的にこれを活かしていけるのか?どうしていったらいいか?というところを考えています。今後も持続した教育のプログラムとして活かしていく方法があるのかな?と探っているところです。

池照:実証性があることが分かり、社会人と同じレベルで成果が上がっていることが分かりました。他人に対しての支援をする。自分をもっと深く理解する。社会人の場合はこれで評価されてしまうから具体性は高いのですが、十分学生の中でも実証性があるなと感じました。酒井先生自身がこれから挑戦されたいことは何かありますか?

酒井:EQをもっと教育の場面で使っていきたいです。民間企業にいた時を考えると、管理職になるときにやりがちな講座です。ですが、管理職に限らず、全員がEQを知った方が良いと思っています。EQはある意味ライフスキルだと思うので、読む、聞く、話すと同じようなベースとして学んでいくべきことだと思います。EQはOSみたいな感じですね!社会人だとポータブルスキルの一つとして分かっておくのが必要なのではないかと思っています。

学校教育現場、大学(院)などでのEQ(感情知性)導入、アセスメント、セミナー実施へのご相談を希望される方はお問合せ下さい。
お問合せ先:株式会社アイズプラス