楽観的とは
「将来を心配していたら今に集中できない」
2009年。インドで興行収入歴代ナンバーワンを記録した映画『きっと、うまくいく』のワンシーンに出てくる言葉です。
前年の2008年は、アメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザース・ホールディングスが経営破綻したことに端を発し、連鎖的に世界規模の金融危機が発生。日本経済も大幅な景気後退を強いられることになりました。
翌年には、メキシコや米国で豚に由来する新型インフルエンザが発生し、瞬く間に世界中に感染が拡大しました。
映画はインドの実態を風刺したストーリーですが、「きっと、うまくいく」というポジティブな生き方で、成功の道を歩んでいく主人公の姿に、希望と勇気をもらった人も多かったのではないかとさえ思えます。
さて今回は、米国Six Seconds EQコンピテンシーの1つ『楽観性の発揮』についてお話ししたいと思います。
「楽観的」に似た言葉に「楽天的」という言葉がありますが、楽観的と楽天的の違いは、気持ちの向きが未来にあるか今にあるか、ということだと言われています。
楽観的は“まだ起きていないことに対して前向きな気持ちを持っていること”。
楽天的は、“すでに起きていることを前向きに捉えていること”。
映画のセリフを借りれば、EQの『楽観性の発揮』とは、まさに
“将来に夢や希望を抱いて、今成すべきことに全力を尽くそう!”と言うことになるでしょう。
とは言え、先が見えなければ不安は募ります。
それが未経験のことであればなおのことです。未だに収束の兆しが見えないコロナは、世界中に不安やストレスを与え続けているのです。
そのような「先が見えない中」でも、私たちが将来に夢や希望を抱いて、充実した今を過ごすためには、どのようなことを意識すると良いのでしょうか。
悲観的な面を活かす
楽観的に対して「悲観的」という言葉があります。先行きに望みがないと考える傾向を言いますが、目の前で起きていることを嘆いたり反発しているだけでは、思考の範囲を狭めてしまい、行動がストップしてしまいます。しかし、物事を悲観的に捉えがちな人は、楽観的な人よりもリスクに敏感で、慎重に対応するという面を持っていますから、そういった悲観的思考を活かせば、不測の事態を想定した対策を講じることができ、将来への不安を軽減させることもできます。防災訓練などは、その良い例ではないでしょうか。
「私は物事を悲観的に考えてしまいがちで悩んでいます」という声を聞くことがあります。しかし、そういうタイプの人の方が、周囲には「ポジティブ」に映っていることがあります。
前述のように、悲観的なタイプの人は「起きてほしくない」ことを想定して対策を講じていたり、ミスにすぐに気づいたりしますから、突発的なことに動じなかったり、瞬時に適切な対応をすることができるので、前向きな人と映るようです。
「私は楽観的なタイプです」という人も、時には物事を悲観的に捉えて善後策を講じてみてはいかがでしょう。今以上に「見えない先」に対する心理的な安全が高まるかもしれません。
感情と向き合う
私たちは日ごろ、無意識に何かを判断し決めていますが、進学や就職、結婚や転職など、人生のターニングポイントで迷った時には、意識して判断材料になる情報を集めようとするでしょう。
自分が置かれている状況と照らしながら、信頼している人の体験談やアドバイス、メディアが紹介する情報などを参考にするかもしれません。
しかし、判断の決め手は、自分の感情に関する情報にあるのではないかと思うのです。
私たちの行動の選択肢は3つ。「進むか・立ち止まるか・その場を立ち去るか」だと言われていますが、どの行動を選択するかは、自分の感情と深く関わっています。例えば、
関心や興味があってワクワクする感情が沸き上がれば「進む=実行に移す方法を考える」、多くの人が評価していても、自分の価値観と違うような気がすれば「立ち止まる=今は静観してみる」、周囲になんと言われても気が進まないし、自分の可能性はもっと他にあると思えば「その場を立ち去る=別の選択肢を探してみる」といった具合です。
第三者からの情報に頼りすぎたり、大勢に流されることなく、自分の感情としっかり向き合ったうえで選択できれば、仮に理想的な結論が得られなくても、自分の意思で選んだ行動であることだと割り切って受け止め、悔いることもないように思います。
何の根拠もなく「きっとうまく行く」と唱えても、それは単なる“祈り”にすぎません。
あえて「起きてほしくないこと」を想定して不測の事態に備える。自分が進む道に悩んだ時は、感情を置いてきぼりにせず「感情は結論を出すために必要な情報の一つ」として活かす。
そういった捉え方ができ、行動に移せた時、自信を持って「きっとうまく行く!」と思えるようになるのではないでしょうか。
株式会社感性労働研究所
宮竹直子