狩猟型採用から農耕型採用へ~採用パラダイムシフト期に早期離職を抑制するヒント

早期離職を取り巻く状況

新卒学生の離職率について、753 現象という言葉を聞いたことがありますか?
これは、中卒学生の7割、高卒学生の5割、大卒学生の3割が入社して3年以内 に辞めてしまうことを表現したものです。厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況」調査を確認すると、早期離職について対策の必要性が高いことが分かります。

厚労省「新規大卒就職者の離職状況(平成27年3月卒業者)」より

続いて20代の労働者の離職理由を見てみると、「労働時間・休日等の労働条件が悪かった」が最も多く18パーセントとなり、「給料等収入が少なかった」15パーセント、「仕事の内容に興味を持てなかった」11パーセントとなっています。

 

 

厚生労働省「平成 29 年雇用動向調査結果の概況」からアドバンテッジリスクマネジメント社まとめ

早期離職を減らすために労働条件の整備や給与水準の向上などが最も手っ取り早い施策として考えられますが、多くの企業がこれらの措置を取ることが難しい環境にあることは想像に難くありません。
このような状況下で早期離職を減らすためにはどのような施策が望まれるのでしょうか。

早期離職を抑制するためのヒント、「EQ」

皆さんはEQという言葉を聞いたことがありますか?
EQはEmotional Intelligence Quotientの略で、日本では「心の知能指数」や「感情マネジメント力」としてビジネス界に広まっています。このEQと呼ばれる能力が、若手社員の離職防止のために注目を集めています。
EQの発祥であるアメリカでは、長くIQが高ければビジネスで成功を収めることができると考えられてきました。
そこで研究者らがコンスタントに成果を上げるビジネスマンとそうでないビジネスマンを比較調査したところ、なんと双方にはIQスコアの違いはほとんどなかったのだそうです。さらに研究者らが調査を進めたところ、「自分と相手の気持ちが分かったうえで相手の心を動かす働きかけができる」人が成果を収めている、ということが分かりました。上記の能力が高い人は人を巻き込む力があるため周囲に協力者が集まり、結果として秀でた成果を収めることにつながっていたのです。この力を研究者らは「EQ」と定義しました。

その後の研究により、EQ能力が高い人はメンタルヘルスの問題が少ないほか、学業にも好影響を与えるとも言われています。※1
(※1 from the 2008 Annual Review in Psychology)

EQ理論では、この感情にまつわる能力は4つのブランチに分かれると定義されています。

1. 感情の識別 相手と自分の気持ちが分かる力

2. 感情の利用 感情を作る、切り替える力

3. 感情の理解 感情が生起した原因が分かり、行く末が分かる力

4. 感情の調整 行動に感情を統合する力

私たちはこの4つのブランチを働かせながら、対人関係を構築しています。
対人関係が存在するところには不可欠ともいわれるこのEQについて、株式会社アドバンテッジリスクマネジメントが調査した新卒対象者のEQ能力推移を確認すると、「感情の理解」を除くすべてのブランチにおいて能力の低下が見られます。

 

特に「感情の利用」と「感情の調整」の能力低下が著しいことから、新卒学生の傾向として、「相手がなぜその気持ちを抱いているのか、その感情は時間がたつごとにどのように変化するのか」という予測はできる一方で「自分で気持ちを切り替え適切な行動につなげていくことが難しい」という課題が推測されます。前段で触れた離職理由と照らし合わせると「労働条件や給料体系、業務内容などの与えられた環境の中で主体的にモチベーションを作り出し問題解決のための前向きな行動を取ること」が苦手であり、結果として入社してわずかな時間で諦めてしまい、離職につながっているという仮説も浮かび上がってきます。では、どのようにすれば対人能力やモチベーションコントロール力の高い、いわゆるEQ能力の高い人材の採用につながるのでしょうか。

採用におけるパラダイムシフト

これまでの新卒採用・育成は「優秀な学生を見つけ採用」し、「自社の色に染める」育成が一般的でした。
しかし、EQ能力経年推移のデータからもわかるように、すでに対人能力やモチベーションコントロールできる学生が減少しているという状況にある中、人材難を背景に少ないパイを多くの企業が奪い合うという事態が随所で起きています。
言ってみれば、「すでに育った人材を狙って採用するよりも、ポテンシャルのある学生を活躍人材に育てる」という視点が必要になってきます。
例えるならば、「すでに育った人材を採用」する旧来の採用は「狩猟型採用」、ポテンシャルのある学生を活躍人材に育てる 採用を「農耕型採用」といえるでしょう。
EQ理論提唱者は「EQは先天的な要素が強いIQとは違い後天的にトレーニングできる能力である」と定義しています。では、具体的にどのようなアプローチで若手社員のEQ能力を向上させ、活躍人材へと成長を促すことができるのでしょうか。

EQ能力向上のためのヒント

EQ4ブランチを高めるための一例として、感情の識別を高めるための方法を簡単にご紹介します。
感情の識別は、「自分と相手の気持ちが分かる能力」のことです。

ここで一つ質問です。あなたはいまどんな気持ちですか?

ポジティブな気持ちか、ネガティブな気持ちか、くらいは区別できたとしても、例えば抱いているネガティブな気持ちが悲しみなのか?驚きなのか?戸惑いなのか?焦りなのか??うまく峻別することが難しいという人が多くいます。
自分の気持ちを自覚するって、必要性を感じない。そう思う人もいるでしょう。
でも、想像してみてください。
例えばお客様と会う前あなたは「不安」を感じたとします。
このような感情を抱いたとしても多くの場合は気づかないか気づかなかったふりをしてそのままお客様とコミュニケーションをとりがちです。
感情は行動に大きな影響を与えるといわれています。
不安な気持ちを自覚できていたら、その気持ちを切り替えたりふさわしい感情に整えたりすることにつながり、お客様に対しても堂々とした印象を与えることができます。

一方で自覚しないままコミュニケーションをとると、ちょっとした仕草や表情に自信のなさや焦りが滲んでしまい、結果として満足のいく関係性構築につながらない、ということにつながってしまいます。
不安な気持ちを自覚すると、もっと不安が募りそうで自覚したくない、といった声も聞こえてきそうですね。
でも、感情には必ず原因があるといわれています。
あなたを不安にさせる原因が必ずあるのです。
なぜ自分は不安を感じるのか?と考えてみると、例えば準備不足や知識不足といったことに行き当たります。
ここまでくると、次にやるべきことは見えてきますね。
次からはもっと準備の時間をしっかりとるとか、知識をより身に着けるため勉強をするなど、建設的な問題解決につながるアクションがとれるのです。
すべては、自分の感情を自覚することから始まります。

特に若手社員の場合、自分の気持ちを自覚した経験がほとんどないという人が多く見られます。
そこで、1日3回意識して自分の今の気持ちを自覚する、という習慣を取り入れてもらいましょう。
出社する前、大事な会議の前、商談の後など自分の心が大きく動くときから始めることがお勧めです。
EQ4ブランチの働きをよくするための教育研修プログラムも提供されているので、そういったプログラムを企業として導入し、若手社員全体のEQ能力の向上を図ることも有効です。

最後に

環境変化の激しい昨今、想定外のことが起こったとしても自分で自分のモチベーションを高め、主体的に人間関係や業務に関われる力がますます求められています。
これらの力は早期離職抑制のために、という枠を超えて、VUCA(Volatility[変動性]、Uncertainty[不確実性]、Complexity[複雑性]、Ambiguity[曖昧性]の頭文字をつなげた造語で、予測不能な状態を意味する)の時代を生きる私たちすべてに必要な人間力とも言えます。
これからの時代に不可欠な能力、EQについて、アドバンテッジリスクマネジメントではこれからも有益な情報を発信していきます。

株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 
専任講師
米田 久美子