コラム コラムニスト 全ての記事 池照佳代

褒めてあげても感謝されない?!

してあげてるのは、なんのため?

「部下を褒めてあげてるのに、あんまり感謝ってされないんですよ」
先日、日経ビジネススクールにご参加いただいた女性のリーダーの方からうかがった一言です。

同じような話を現在コーチングを担当している部長さんからも聞きました。
「コーチングって毎日しているつもりですが、感謝はされないですよね・・・」

せっかく○○してあげてるのに、感謝のひとつもない!

会社などの組織でなく、家庭で子育てしていてもよく聞く話です。
実は私もそう思ってましたし、そう言ってもいました。
「こんなに褒めてるのに、感謝ひとつしない」って。

「褒める」のは相手に気づいて欲しい、そして褒めた先に何かしら目的達成に向けたプラスの行動が行われると期待するからです。
もっと細かいレポートを書いて欲しい、
(⇒だから「レポートのここ素晴らしいよ」とまず褒める)
お客さんの目を見てプレゼンしてほしい、
(⇒だから「まっすぐ向いたときの目がよかったよ」とほ褒める)

そしてその期待に応えてもらえれば、部下にとって良い結果になると思うから、私たちは一所懸命褒めるのです。彼、彼女のことを想って。

ですが、私たちが想って「こうあって欲しい」と描いた行動は、実はまだどれも私たち(褒める側)からしか描かれていません。
部下(褒められる側)には、まだその”こうあって欲しい場面”は描かれていないのです。
つまり、ちょっと乱暴な見方をすれば、こうあって欲しい姿は褒めてる側だけが勝手に描いている姿と言う可能性があります。

もし、褒めること自体が目的になっているなら、どんどん褒めてそれで終わりでいいでしょう。
もし、”こうあって欲しい姿”に一緒に向かいたのであれば、彼・彼女らが自分から”到達したい姿”を重ね合わせておいた方が良いでしょう。彼らがいきたい場所に向かう一歩につながれば、それは感謝に値します。

「褒めてあげて」も感謝されないのは当たり前かもしれません。だって相手はそこに行きたいと思っていないのですから。
「○○してあげる」という気持ちがどこかにある以上、それはどうしても上位者から下位者への押し付けになって
いないか、自戒をこめて見直す必要がありそうです。

逆に、自分が描くありたい姿に一歩でも近づいてくれたなら、それは私たちが「同じ世界を共有できることの喜び」を表した方がよいのではと思います。
それは私たちからの「ありがとう」「感謝」をつたえることにつながるのではないでしょうか?

上司だから褒める?

そもそもこの「褒める」という行為は、上司という立場が上の人から部下などの立場が低い人に向けての発信に
限定されるのでしょうか?
「社員は褒めてあげなきゃ」という言葉には、上司は社員よりも立場だけでなく、知識や経験、人間性までも上というニュアンスを感じざるを得ません。
一方、「一人ひとりが立派な社会人だよ」と位置付けるリーダーの方もいらっしゃいます。
以前私のブログでも紹介した「ピグマリオン効果」の考え方などを実践するリーダーなどはこれにあたるでしょう。

上司ー部下は、組織内の役割の大きさの違いであり、部下はすでに立派な社会人、そして各担当分野においては
私たちよりもその現場に詳しいエキスパートなのです。
もちろん、プロジェクトを一緒にやるにおいて、そして彼らを育成していくためには、意図的な育成の中で「認める」や「受容する」ことはとても有用な行動です。
しかし、それはあくまで部下としてよりも一人の人間として尊敬の念をもって接しているかどうかがカギとなります。
人は皆、自分がどのように扱われているかは感じ取るものです。

「育ててあげてる」意識での誉め言葉なら必要ありません。
それよりも相手の表情、様子、ちょとした言葉の変化を観察し、一つひとつを「認める」声かけが相手の心に響きます。
そう考えると、「褒める」は上司だけからとは限りません。
どんな方でもその人を「認めよう」という気持ちがあればちょっと褒める、認めるは誰でもできるものになります。
「認める」があってさらに気持ちを加える「褒める」がある、「認める」のない「褒める」は言葉だけになりがちです。

褒めるのは立場が上の人だけか?

辞書によると、
褒める:
 相手の良い行いや物事を高く評価する
 個人から個人に
 目上にはつかわない
誉める:
 受賞など、偉業を成し遂げたことをたたえること
 周囲から個人に対して
 目上の人にもつかえる

という定義のちがいがあるそうです。
そう考えたら、字の違いがありますが「ほめること」は何も上司から部下への専売ではありません。
部下から上司に対しても、「誉める」ことはできるのです。
共通するのは、部下であれ上司であれ誰であれ、相手に尊敬と敬意をもって人間として接しているかという「心」の視点です。

私を一人の人として扱って下さる上司は、お世辞にも語彙力豊富な褒め上手とは言えない方でした。
でも、下手な褒め言葉より彼の「うん、いいね」と笑顔が私の数々の行動を後押ししてくださっていた気がします。

・相手に対して尊敬の姿勢をもつこと
・「認める」>「褒める」をもつこと
・自分と同じ世界を共有できたら、それはこちらから「ありがとう」

なにかしてあげようと思えば見返りも欲しくなりますが、自分が心から誰かの言動に感動できれば、それを素直に
相手に伝えたくなるものです。
本当の意味の「ほめる」は、自分自身の心が動いた時、相手への共感の言葉になる、そう確信できるステキなお話でした。

株式会社アイズプラス 
代表取締役 池照佳代